振り返ること。そして踏み出していくこと。
20代を締めくくる記念碑的ライブステージ。
Album『SHADE AND LIGHT』Release One-Man Live「光」 ライブレポート
2023-03-18 [Report]
2023年3月10日。ニューアルバム『SHADE AND LIGHT』のリリースとともに、20代最後のワンマンライブを開催した黒木ちひろ。新たな一歩を踏み出すかのように新曲を披露しつつ、自身のルーツまでも惜しげもなく披露。さらに、彼女を支え続けてきた横浜・ミントホールへの思いをたっぷりと綴ったステージの様子をレポートする。

回転するミラーボールの輝きの中、ニューアルバム「SHADE AND LIGHT」の「introduction」が流れる横浜・ミントホール。バンドメンバーがひとりずつスタンバイした後、裸足にドレス姿の黒木が登場すると会場からは拍手が沸き上がった。いよいよ黒木ちひろが4年ぶりにこの地で開催するワンマンの始まりだ。

1曲目はニューアルバムからの『蒲公英』。ロック色の強いサウンドで、オープニング早々ステージはヒートアップする。続いては『轍』。この曲ができた経緯について「30歳のバースディを目前に、歳を重ねたからこそ書けた詞。やっと歌えた」と言っていた黒木。耳を澄ませていると、曲の節々から等身大の彼女の姿が浮かび上がってくる。まさに、20代最後の節目となるワンマンにふさわしい1曲だ。

「影のパートからお届けしましたが、光も歌っていきたいと思います」。最初のMCに続いて曲は『太陽さがし』へ。イントロに載せて、黒木がバンドメンバーを紹介。曲が始まるとタイトルどおりの暖かなサウンドに、会場内からは自然に手拍子があふれ出した。間奏で黒木が奏でるブルースハープもとても心地いい。続く『calm』では、バンドメンバーも曲に載せてリズムをとり、ステージ上は海の凪のようにおだやかに揺らいでいた。

黒木はギターを下ろしてグランドピアノの前へ。ニューアルバムからの『葉桜』をバンドとともにセッションすると、繊細なピアノの音色から始まる『STARLIKE』へ。黒木の奏でる高音域の音のひとつひとつが粒になって舞っているかのように、ミラーボールの光が会場中に拡がった。

ここで一旦バンドが退くと、ステージはピアノ弾き語りパートへ。新曲『Love is the way』。そして『呼吸』『No Face』をピアノとともに歌い継ぐ。彼女の声とピアノの生音が、やさしさと力強さを兼ね備えつつホールに響き渡った。

続いては彼女が得意とするルーパーを駆使したアコースティックギターの弾き語りへ。弦を鳴らして音色を奏でつつ、ギターのボディを打楽器のように叩くと、その音はリズムに生まれ変わる。こうして始まった曲は『Left Behind』。「みんなとおんなじです」という強烈なインパクトを残すフレーズと、ギターのボディを叩く力強い打音。これらが繰り返され、まるで心臓の鼓動のように響く。それだけでなくブルースハープ、マラカス、そして自身の声でのハミング。数々の音が足元の機器で操られ、ひとつの楽曲として昇華していった。

たった独りで奏でているとは思えない、幾重にも重なった音と声。圧倒されるがままに『remains』『HURT』と曲が進んでいった。ルーパーやエフェクターで音を重ねるアーティストは他にもいるが、ここまで手数の多い凝った音を重ねるアーティストを私は他に知らない。

「ありがとうございます。ここでのワンマンが4年ぶりということで、とても懐かしい気持ちになっています。こんなに詰め込んで歌うのは、本当に久しぶりです。アルバムを作ったり、今日のセットリストを作ったりとかしながら、曲を作るのが、言葉を書くのが、私は本当に好きなんだなと思ったりしました」。この日のワンマンを迎えた喜びを語る黒木。

「ミントホールには、私がまだ機材なんてひとつも持っていない頃からお世話になっていて。本当に私はこのホールが大好きで。このステージに立つと根っこの部分に還れるというか、素を出せるというか。そんな気持ちになれて。本当にいつもすごく心の支えになっていて。今日はやっと、やっと。ここでワンマンライブを演ることができて本当にうれしいです」。ワンマンへの思いに続いては、会場となったミントホールへの熱い感謝を語った。

次の曲は「Zeppのステージに立つ」という目標とともに作った『ハーフウェイ』。「今日が20代最後のワンマンライブです。でも、この歳になっても子どもみたいに泣いたりする。そんな上手に生きられない私の歌で、共感してくれたり、少しでも心が安らいでくれたらうれしいなと思います。この曲を作った時もすごく泣きながら作ったのを覚えています。いつまでも、いつまでも。道の途中にいるような。何者にもなれず辿り着けないような。そんな思いですが、道の途中でみなさんに会えたこと。私の周りにいてくれるみなさんがいることを本当にうれしく思います」。イントロでは思いの丈を語り、まるで自問自答するかのように強く歌い上げた。

続いて彼女が選んだ曲は『lemon』。「自己紹介のようでもあり、母との出来事をまっすぐに綴った」という詞は、実体験をリアルに反映しており、いろいろな意味で「始まりの歌」だという。「lemon」には「出来損ない」という意味もある。足りない自分へ向き合うかのような、独り語りが似合う曲。歌われている事象は彼女だけのものであるはずだ。だが、曲として昇華されることで、まるで私たち一人ひとりの過ちまで彼女が身代わりとなって代弁してくれるかのような気持ちになるから不思議だ。これこそが曲の持つ大きな力なのだろう。

ここで再びバンドメンバーがステージへ。バンド編成ならではの力強いサウンドで展開する『little sun』。そして、あの大震災が起きた3.11を題材にしたという『祈りの糸』へ。ニューアルバムからの曲が続けて披露された。沖縄の歴史を受け止めて書いたという『宇宙の島』では、再び黒木が足元のルーパーを操り、自身の声を重ね合わせた多重ボーカルが会場を包み込んだ。

この日のライブもいよいよ佳境へ。彼女が最後に選んだ曲は、ニューアルバムのラストを飾る『光の在処』。「世界は悲しいなと思うし、私自身も悲しさに呑まれる時があります。それでも私は光を見たいし、みなさんにも光を見ていてほしいなとすごく思います。こんな私でも曲を作って光を届けたいといつも思っています。どうぞみなさまが、いつも大丈夫であるように」。今を生きる彼女の思いとともに、スケールの大きな音が会場を呑み込むように広がる。時に声をうわずらせながら歌う黒木。その声は聴く者の胸をダイレクトに突き刺した。

バントメンバーと黒木が颯爽とステージを去った後には、スタイリッシュなビジュアルがステージの背景にエンディングとして映し出された。それは、未来を切り拓いていこうとする強い意思の感じられる映像であり、とても明るく輝かしかった。

 

Written by BackyOSAKA.

Photo by Atsushi Nozaki

Album『SHADE AND LIGHT』Release One-Man Live「光」セットリスト
☆はニューアルバム『SHADE AND LIGHT』収録曲
▼アコギ×バンド
1.蒲公英☆
2.轍☆
3.IN MY HANDS☆
4.太陽さがし☆
5.calm
▼ピアノ×バンド
6.葉桜☆
7.STARLIKE
▼ピアノ弾き語り
8.Love is the way☆
9.呼吸
10.No Face
▼アコギ(+ルーパー)弾き語り
11.Left Behind
12.remains
13.HURT
▼アコギ弾き語り
14.ハーフウェイ
15.lemon
▼ギター×バンド
16.little sun☆
17.祈りの⽷☆
18.宇宙の島
▼ピアノ×バンド
19.光の在処☆

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