黒木ちひろが目指し、駆け抜けた先にあった『扉』とは。
黒木ちひろ KT Zepp Yokohama ワンマンライブ『扉』 2025.1.29 Wed
ライブレポート
2025-01-29 [Report] by Backy☆OSAKA
「6年越しの夢だった」というZeppでのワンマン。彼女はその公演に『扉』というタイトルを付けた。自身の音楽活動で最大の目標となったステージの『扉』。その先に彼女が見たものとは。

ステージの背には今回のテーマとなる『扉』のイメージが描かれたタペストリーが掲げられている。10mほどの高さを持つステージに吊り下げられた巨大なタペストリー。その大きさからもこのステージのスケール感が改めて実感できる。今からこのステージに黒木ちひろが立つ。彼女を応援し、見守り続けてきた多くの人たちにとっても、このステージは特別なものだ。まだ無人のステージを眺めながら、これまでの軌跡が頭を駆け巡っていたファンも多かったことだろう。

そして始まったステージ本番。ポップなサウンドとカラフルな照明とともにライブが始まる。バンドメンバーに続いて、スパンコールが眩しいほどに散りばめられたロングドレスで登場した黒木。ステージ中央へ立つと深々と礼をしてキーボードの前にスタンバイした。

ついに開かれた『扉』。

1曲目は新曲『Good Night』。エフェクトのかかったボーカルに載せて、特別な時の幕開けといったイメージの新曲でライブがスタートした。「𝐊𝐓 𝐙𝐞𝐩𝐩 𝐘𝐨𝐤𝐨𝐡𝐚𝐦𝐚、よろしくお願いします!」。間奏で挨拶をする黒木。これからワクワクすることが始まる。会場中をそんな気持ちにさせてくれるイントロダクションとなった。

2曲目はステージ中央でギターを抱え『轍』を披露。Zeppのステージに凛と立つ彼女の姿と『轍』の力強い世界観がリンクして、このステージに立つ喜びと誇りが、観る側にも伝わってくる。

続く『Left Behind』では、ずっと黒木を支えてきたスタッフによる見事な照明の演出もあり、曲中のメッセージがいつも以上に際立っていた。初めてこの曲を聴く人は、きっと心をえぐられるような感覚を覚えたことだろう。

STARLIKE』では打って変わってステージが青く照らされ、高い天井に吊り下げられたミラーボールからは光のシャワーが降り注いだ。このように今回のライブは照明の演出効果が際立っていたのも印象的だった。

バンドメンバーとともに奏でる贅沢な音。そして煌びやかな光を浴びながら満面の笑みでピアノを奏でる黒木。その表情からは、今この瞬間を最大限に楽しんでいる様子が伝わってくる。

「ここからはひとりで演奏したいと思います」。彼女の声で、バンドメンバーは一旦ステージ袖に戻り黒木のソロ演奏へ。会場から自然に手拍子が鳴り響く中、満面の笑みで『宝』を披露した。観ているこちらまで幸せな気持ちにさせてくれる、溢れんばかりの多幸感に満ちた曲だ。『箱庭』では、時にドキリとさせられるほどの切れ味のカッティングギターを披露。いつもながら、彼女のテクニックには感服させられる。

「ステージに立つこと」そして「生きること」への想い。

「ありがとうございます。この場に立つことができて、何が言えるだろうと思っていたのですが、素直に楽しいので皆さんも一緒に楽しんでくれていたらとてもうれしいです」。会場中から大きな拍手が湧き上がる。「(今ここにいることが)とっても現実なんだけど、夢を見ているような不思議な気持ちです」。黒木は満面の笑みとともに、素直な気持ちをそのままに伝えた。

10代の頃から鬱に悩まされ通学できなかった時期もあったという黒木だが、そんな彼女を救ったのが音楽だった。「音楽に出会って救われて、この道を生き続けて今があるんです。その頃の自分に今日のことを伝えても絶対に信じないだろうなとしみじみ思ったりするんですが、生きるということは想像もできないし、コントロールも効かない。思い通りにはならないのですが、そんな生きると言うことの愛おしさを歌った歌があります」。

My unstable life』は「私の不安定な日々」という意味を持つ曲。彼女が生きるということに向き合った曲だが、響きはとても心地よく、鍵盤の余韻が聴く側の心にも生きる喜びを感じさせてくれる。

「この日に至る道の中で、先月12月に私の大事な大事な猫が亡くなりまして。今日も一緒にZeppに立つぞと思って遺骨ペンダントを付けているんです。18歳半、生きていたのでいつ逝ってしまってもおかしくなかったのですが、Zeppを待たずして私に心配をかけないように早くに逝ってしまったなぁという感じもして。亡くなった猫のカノンちゃんは、私の人生の半分以上を一緒に生きていたので、ひとつの時代が終わったという感じもするのですが、今日は私の猫を見送る歌を歌ってみたいと思います」。

ずっと共に過ごしてきた愛猫に贈った『little sun』は愛おしさに満ち満ちた曲だった。続いたのは、彼女の手腕が炸裂する『remains』。ギターのボディを叩き、マラカスを振り、ハーモニカを奏で、裸足でルーパーを操りながらそれらの音を次々と重ねていく。多重演奏は黒木ちひろの真骨頂。重なりあう音で会場を魅了しつつソロパートは終了した。

remains』のアウトロでバンドメンバーが入場すると、曲はバンドサウンドならではのアレンジが施された『祈りの糸』へ。ロック色の強いサウンドに酔いしれるようにギターをかき鳴らす黒木の姿が印象的だった。

彼女はなぜZeppを目指したのか。

黒木はここでZeppを目指した理由を語った。時は2014年に遡る。当時開催されたトーナメントの決勝で、黒木はZepp Tokyoに出演した。その際に大きなステージで歌う魅力に取り憑かれ「もう一度Zeppで歌いたい」という気持ちが芽生えたという。『祈りの糸』はその時にも歌われた曲。3.11の時に作った曲で2014年の当時“Zeppに立つと決まった時に「歌おう」と決めていたというエピソードを披露した。

次の曲『lemon』は、2014年のZeppに立った際に初披露した曲。この時、初めて家族に歌う姿を見せたとのことで、最も実体験に近い曲だという。「lemonと言う言葉には、出来損ないという意味もあります。自分のことを出来損ないだと思っていた自分と、そんな自分を一番近くでずっと見守ってくれた母とのことを歌った曲です」。この曲を紹介する際にいつも語るエピソードとともに曲がスタート。黒木のアコースティックギターと鈴木優太のキーボードが、ふたたびZeppのステージに『lemon』を響かせた。

彼女が「Zeppの舞台に立つ」という目標を発表したのは、2019年のワンマンでのことだった。「私の歌が誰かを救うはずだと強く信じてくれる人がいて、それを嘘にしたくない。だから行動しようと決めた」という黒木。それからの5年間、この目標に向かって葛藤しながらも走り続けてきた。次の曲はそんな時に作り、自分のテーマソングのように思っているという『はじまりとおわり』。「自分の軸になると思っているこの曲をこの場所で歌えることを嬉しく思います」。Zeppに立つことを宣言して走り続けた結果、今このステージに立っていることへの誇りが感じられる瞬間となった。

そして曲中の「消えない光」は次の曲に引き継がれる。「光をいつも探し続けていました。みなさんの光は、今ここにあるでしょうか」。そんな問いかけから始まったのが『光の在処』。黒木の奏でる繊細なピアノソロから、圧巻のバンドサウンドへ。この曲のテーマでもある「光」は希望に満ち溢れていた。

ここでステージは暗転し、黒木はステージ中央に移動。ギターを手にすると『宇宙の島』のイントロが始まった。ギターソロからバンドサウンドへ。曲の持つパワーが音と共に増大していき、Zeppの高い天井にあるミラーボールから会場中に光が降り注ぐ。ここから間髪入れずに黒木がギターを鳴らし、バンドメンバーが会場に手拍子を求めて始まったのが『夜行虫』。テンション高めの曲の世界観を観客は手拍子で迎え入れ、黒木は満面の笑顔で返していった。曲の後半は一人ひとりのバンドメンバーと目を合わせながら演奏。この瞬間をメンバーとともに精一杯楽しんでいる様子が伝わってきた。

『扉』の向こう側には、何があるのか。

渾身のZeppライブもいよいよ佳境へ。この日のライブに向けて多忙だったにもかかわらず、黒木は2枚のシングルをリリースした。その1枚となるのが『AFLOAT』。この曲のジャケットには、SNSなどで人気のイラストレーターなおにゃんのイラストが描かれている。ジャケットのアートワーク制作時のやりとりも含め、ひとりでは生まれなかった曲であり「私の曲の中でいちばん優しい曲のひとつ。私のこれからにも繋がる曲になったのではないかなと思っています」と、この曲を紹介。演奏中は客席をゆっくりと眺めつつ、時にステージ左右に歩み寄りながら音を紡いでいった。

「最後の曲になります。終わりたくないけど終わります」。このステージを実現させてくれたスタッフやバンドメンバー、そして応援を続け、支え続けてくれた人たちに改めて感謝を告げる黒木。「私の道はここで一区切りを迎えます。この1年近くはずっと答えを探し続けているような日々でした。そんな中、自分が何を残せるか考えたのですが、私が残したいのは愛と優しさと、それから赦しなんだろうと思いました。途方もない夢を見ることも、ただただ平和な日常を過ごしたいという思いも、全部赦されてほしい。これが私の願いです。ここまで来ることができて。音楽に恋をして。みなさんに会えて本当によかったです」。ラストを飾ったのは、もうひとつの新曲『SILLY STORY』。「馬鹿馬鹿しくて、みっともなくて、愛おしくて。大切な私の道でした」。歌う前のMCで黒木はそう告げた。そして『扉』を開くために彼女の紡いできたストーリーは、この曲にすべて集約されていた。

ステージの最後で彼女が口にした言葉は「また音楽で会いましょう」。開かれた『扉』の先に何があるのかはまだわからない。でも、これからも必ず音楽で会うことができる。彼女の『SILLY STORY』はこれからも続いていくのだから。

渾身のZeppライブもいよいよ佳境へ。この日のライブに向けて多忙だったにもかかわらず、黒木は2枚のシングルをリリースした。その1枚となるのが『AFLOAT』。この曲のジャケットには、SNSなどで人気のイラストレーターなおにゃんのイラストが描かれている。ジャケットのアートワーク制作時のやりとりも含め、ひとりでは生まれなかった曲であり「私の曲の中でいちばん優しい曲のひとつ。私のこれからにも繋がる曲になったのではないかなと思っています」と、この曲を紹介。演奏中は客席をゆっくりと眺めつつ、時にステージ左右に歩み寄りながら音を紡いでいった。

「最後の曲になります。終わりたくないけど終わります」。このステージを実現させてくれたスタッフやバンドメンバー、そして応援を続け、支え続けてくれた人たちに改めて感謝を告げる黒木。「私の道はここで一区切りを迎えます。この1年近くはずっと答えを探し続けているような日々でした。そんな中、自分が何を残せるか考えたのですが、私が残したいのは愛と優しさと、それから赦しなんだろうと思いました。途方もない夢を見ることも、ただただ平和な日常を過ごしたいという思いも、全部赦されてほしい。これが私の願いです。ここまで来ることができて。音楽に恋をして、みなさんに会えて、本当によかったです」。ラストを飾ったのは、もうひとつの新曲『SILLY STORY』。「馬鹿馬鹿しくて、みっともなくて、愛おしくて、大切な、私の道でした」。歌う前のMCで黒木はそう告げた。そして『扉』を開くために彼女の紡いできたストーリーは、この曲にすべて集約されていた。

ステージの最後で彼女が口にした言葉は「また音楽で会いましょう」。開かれた『扉』の先に何があるのかはまだわからない。でも、これからも必ず音楽で会うことができる。彼女のストーリーはこれからも続いていくのだから。

Written by BackyOSAKA

Photo by Atsushi Nozaki

黒木ちひろ 𝐊𝐓 𝐙𝐞𝐩𝐩 𝐘𝐨𝐤𝐨𝐡𝐚𝐦𝐚 ワンマンライブ『扉』セットリスト

▼バンド演奏
1.Good Night
2.轍
3.Left Behind
4.STARLIKE

▼ソロ弾き語り
5.宝
6.箱庭
7.My unstable life
9.little sun
9.remains

▼バンド演奏
10.祈りの糸
11.lemon
12.はじまりとおわり
13.光の在処
14.宇宙の島
15.夜光虫
16.AFLOAT
17.SILLY STORY

【BAND】
Vo. AG. Pf. 黒木ちひろ
Gt. オオハシヒロユキ
Key. 鈴木優太
Ba. 児玉幸大
Dr. 中島聖悟